原子炉を眠らせ太陽を呼び覚ませ

森永晴彦 草思社


はじめに

賛成か反対かという不毛な論議はやめよ!
本書の主題は、原子力の力で太陽を取ってくるという明るい話である。しかしながら、私が過去五〇年間ずっとそばで見てきた原子力の世界は、けっして明るいものではなかった。そこにはつねにウソと策略とがつきまとい、兄弟分である核兵器の影がちらちら見え隠れしてきたのである。だから私の友人のように、あえて学界から出ようとせず、頭から原子力とのかかわり合いを避けている者も少なくない。だが、私には一研究者の正直な感情として、科学者として、また社会人として是非とも言っておきたいことがある。私は、自分が感銘を受けてきた核の科学に、もっとましな道を歩んでもらいたいのだ。私のような、一般には無名の人間が原子力について語れば、おそらく読者の最初の反応は「お前は原発に対して賛成派かP・それとも反対派かP」という設問となるだろう。だが、ここではっきりと断っておきたい。私は、賛成か反対かというような不毛の次元で動くことは、科学者としてとるべき態度ではないと信じる。重要なのは、そういう不毛の政治的立場をとることではなく、どうすればわれわれの生活を、現状から脱してより良く、かつ安全なものにできるかという問題に取り組んでいくことである。そういう眼から見ると、現在の日本の原子力政策はまったく重大な誤りに満ちでいると言わざるをえない。本書では、とくにそのなかの二つ、放射能の安全対策における危険な誤りと、「核融合」計画推進に関する重大な誤りを指摘したい。前者に対してはその是正策を提案し(第二章一、後者に対してはただちに計画の廃止に踏み切るべきことを主張する(第三章一。また、第一章には原子力の来し方について、これまでの私の経験をまじえつつ書きつづっているが、これは読者に原子力についての理解を深めていただくと同時に、現時点で考えられる原子力の将来計画一ただちにおこなうべきもの、現在の計画を変更すべきもの、そして、最も望ましいその将来像一を正しくつくっていくためのものである。そして、本書を著した私の中心主題が第四章である。原子力の力で太陽光発電を立ち上がらせることで、原子力からの離脱・移行をなめらかに実現させようという提案である。このアイディアは、一〇年ほど前から考えていたものであるが、それが原理的に可能であることをここで詳述していきたい。現在、兆のケタの予算が投じられている核融合や高速増殖炉の研究開発の目的は、「将来のエネルギーの確保」だと言われている。しかし、最近までの研究結果を解析すれば、その実現は少なくとも近い将来には無理である。当事者自身さえも「五〇年後」いや「一〇〇年後」などと言いはじめている。おそらくは不可能であろう。だが、これだけの予算が太陽光発電に投じられたならば、現在は細々とおこなわれているにすぎない太陽エネルギーの本格的な利用が、近いうちにスタートできるはずだ。しかもこのエネルギーは、核融合も高速増殖炉も本質的に避けることのできない、さらなる放射能被爆の脅威とはまったく無関係なのである。「原子炉を眠らせ、太陽を呼び覚ませ」という私の提案は、しかしまだまだ荒削りである。したがって、本書は私の論文として読んでいただきたい。そこには多くの問題もあるだろう。また、より望ましい新たな視点も出てくるであろう。それゆえ、本書を読まれた読者諸賢からそうした指摘や提案、助言をいただければ何より幸いであり、それが本書を世に問う意味でもある。

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